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ぼくの地球を守って あらすじ(ネタバレあり)~vol.10~
そしてまたこの夢の世界に
倖せで残酷な夢に戻る
ただ君に逢うために
還らない夢と
失い得ない現在とのはざ間で
孤独な魂が叫び続ける
婚約解消の意図
ピンポーン
「はい、あら、ありすちゃん。」
「こんばんは。あの…輪くん帰ってますか?」
楽しみにしていたはずの紫苑(春彦)と会う機会を、なかば強引に切り上げ、逃げる様に帰ってきたありすは、真っ先に輪の家を訪れていた。
輪に聞きたいことがあった。
あれほどまでに強制的に婚約を迫ってきたはずなのに。
9歳の年齢差を泣くほど悔しがっていたはずなのに。
まるで手のひらを返すかの様に、紫苑との仲を取り持とうとしている理由は何だというのか。
「ね、輪くん、正直に答えてくれる?どうして、あたしと紫苑さんを会わせようって思ったの?」
すでに何度か尋ねたセリフだ。
その度に輪からは
「ありすが嬉しいならいいじゃないか」
と、なんとなくはぐらかされていた。
今日こそ、ちゃんと本心を聞きたい。
『正直に答えてくれる?』とあえて付けたのは、その答えを逃がさないためだった。
輪の答えはこうだった。
「君と彼は結婚するはずだったんだもの」
紫苑と木蓮の婚約。月の話だ。
また…それだ。
「輪くん、どうして…どうしてそんなにあたしを木蓮さんにしたいの?あたし、輪くんが何考えてるのかちっともわからない」
ありすは、思わず泣けてきた。
下を向いたままボロボロ涙を流すありすを見つめたまま、しばらく何も言わなかった輪がゆっくり口を開く。
「ごめんね、ありす。今日はもう帰ってくれる?」
ありすが輪の顔を見上げると
優しく微笑む大人びた輪の姿があった。
輪はこのとき決心していた。
『ありすとの婚約を解消する』
ー 孤独 ー
母親伝いで、輪からの婚約解消宣言を聞かされたありすは複雑だった。
まだ、何も
何もわかっていない。
考えても、わからない。
ありすは納得できないことだらけで振り回されるのにも疲れていた。
そんな時、輪が明るく尋ねてきた。
「やっ!どもっ!!お散歩しない?」
輪と一緒に外に出たありすは、自分でも言い飽きたセリフを無意識に口にする。
「輪くん、どうして…」
「ずるいなぁありすは。人に訊いてばかりいて、自分に訊いてない。答えはみんな君の中にあるのに」
ありすは、自分が考えることから目を背けてきたことを言い当てられた様な気がしてドキッとした。
「君はいつも自分のこと木蓮かもしれないって…考えようともしてくれないんだ。だけどもしかしたら、その思惟へ行く妨げが婚約にあったのなら…そう思って。だから君を自由にしてあげる。」
大人顔負けの言葉を並べる輪に、ありすは、彼に早熟さを与えている月の記憶の人格を見た気がした。
「でもそのかわり、騙されたと思って信じてみて。自分が木蓮だったかもしれないこと。紫苑は哀しいくらい、君の覚醒を待ってる」
… 君の覚醒を …
そう口にした途端、輪は表情をこわばらせてありすにしがみ付いてきた。
「君が違うって言うなら、紫苑は永遠に探し続けなくちゃならない。本当は切望するものが目の前にあるのに…」
ありすの服をグッと握りしめる輪の手に力がこもる。
「教えてくれありす…!オレはこうして君の傍にいるのに、どうしてこんなに不安なんだ。どっちが現実かわからないんだ。目が醒めたら誰もいない。オレは独りで…やっぱりオレはたった独り、どこを探しても君はいない…そしてまた、この夢の世界に…倖せで残酷な夢に戻る…君に逢うためにずっと…」
小さな体が震えていた。
「輪くん…!?」
「…ごめん。わけわかんないこと…言っちゃったね…帰ろうありす。」
今までに見たことがないほど取り乱した輪の姿に、“コッチ”が本物の輪ではないかと、ありすは直感的に感じていた。
タブー
一成と桜はムーンドリームの仲間に、春彦(紫苑)とありすが密会していた現場を目撃したことを話した。
「変よね!!大体なんであの二人が知り合いなわけ!?」
興奮冷めやらぬ桜(繻子蘭)を横目に、大介(柊)は色々疑問を整理しようと冷静に持ちかけた。
結局のところ
春彦とありすを引き合わせたのは、輪(秋海棠)であったという事実を飲み込んだ桜だったが、春彦がありすに何かを迫っていた二人の様子には、ただならぬモノを感じていた。
紫苑を危険視する理由。
『キィ・ワード』
「確かキィ・ワードのことでイザコザがあったじゃない。紫苑を中心にして」
そのことを憶い出すべきだと桜は主張した。
キィ・ワードを全員が憶い出し、出来事をハッキリさせるべき。
輪にとってはまたとない好都合の提案だ。
みんなからの情報を引き出すために先陣を切って自ら秋海棠のキィ・ワード公表した。
「ぼくはバッチリ憶えてますよ。『夢二楽土求メタリ』!」
「あたしなんてねー聴いて聴いて!『槐のお守りはもうごめん』よー!!ぎゃはははははは」
ノリノリで桜が答えた。
盛り上がりをみせるかの様に思えた話題だったが、大介(柊)が一喝した。
「待て!!ちょっと待て!!!!それは仲間内でも公表禁止だったはずだ!!軽々しく口にしちゃダメだ!!!」
月基地でリーダーだった柊はその責務を今世でも全うすべく
「7つ揃えば基地の何か大きな機能の作動を可能にする重大なことだったはずだ」
と、キィ・ワードの公表を禁止した。
こうしてキィ・ワードはムーンドリームの会合の中でのタブー事項となったが、出来事を明らかにする年表を作ることは採用された。
木蓮の素質
音楽室のそばに立つイチョウの木が異常に成長した。
それはありすが合唱部に入部した直後からのことだった。
「あたしのせい?」
ありすはイチョウに語りかける。
《〈そうだよ〉》
ありすにだけ聞こえるイチョウの声に背中を押される。
『騙されたと思って信じてみて。自分が木蓮だったかもしれないこと。』
輪が口にした言葉に、おこがましいとは思いつつも、考えてみるだけならいいかもしれないとありすは思いはじめていた。
月の記憶
それを夢に見ることはなかったが
せめていつでも木蓮さんと一緒にいるような…
ありすはそんな気持ちを込めて合唱の自主練に励むようになっていた。
『歌うことは好き?』
春彦と会った時に問われたこと。
たまたまクラスメイトから誘われて入部した合唱部だったが、ありすの自主練の声があまりにも美声であったため、本人に自覚は無かったが、生徒達から憧れの眼差しを受ける様になっていた。
イチョウの木の成長、そしてマドンナ的な存在へと変化していくありすの様子に気づいていた迅八は、本人がなんと言おうと疑いようもなくありすは木蓮であると確信していた。
そして、ありすにもう一度ムーンドリームの会合に来ないかと声をかけた。
ありすは意を決して言った。
「…行きます。あたし…会合に行きます」
不一致
迅八が誘ってくれたおかげで、もう一度ムーンドリームの仲間に加えてもらう運びとなったありすだったが、正直会合の席は居心地が良いものではなかった。
みんながみんな、ありすを木蓮であると認めている訳ではない。
特に桜からははっきりと訝しんでいる様子が見てとれた。
歌声による植物の成長や、幼い頃から植物や動物の気持ちがわかることを伝えたところで、桜はなんの冗談だとありすを笑い物にした。
「彼女が木蓮ならごく当たり前の事のはずだろう!?」
大介は桜をたしなめた。
ありすは輪が言っていた言葉を思い出していた。
『哀しいくらい、君の覚醒を待ってる』
あの時の、輪くんの何かに怯えた様子。
理解するためにも自分の覚醒が必要なのだとしたら、ここでくじけるわけにはいかないとも思った。
ありすは自分にもわかる様なことが無いかと、みんなの夢の記憶をたどって作られた年表を凝視した。
ムーンドリームを1度しか見たことのないありすだったが、数少ないムーンドリームの情報と、今世で起こっている事実と照らし合わせ、自分の記憶との差異がある部分をみつけた。
年表には7人のメンバーの中で最後まで生き残ったのが“紫苑と木蓮”と書かれている。
『目が醒めたら誰もいない。オレは独りで…やっぱりオレはたった独り、どこを探しても君はいない…』
そう言って取り乱した輪を目の当たりにしていたありすは、輪(秋海棠)が月基地に残された最後の一人であると思い込んでいた。
「??最後に残ったのは秋海棠さんじゃなかったですか…?」
そう尋ねたが、年表通りで間違いないと訂正された。
輪もまた
「何勘違いしてんだよ、やだなぁ…最後に残ったのはボクじゃないよ」
と言い切った。
ありすは、輪の様子に
また
本当の輪が遠のいてしまった…
そんな気がした。
ぼくの地球を守って(文庫版)第四巻より、お伝えしています。
ぼくの地球を守って 感想と思うこと
ありすがですね、
紫苑に惹かれて乙女な妄想とかして、会うこともすっごく楽しみにしていた…というのに、気づけば輪くんのことばかり考えてしまうようになってるんですね。
普通のよくありがちな恋愛視点でいうと
猛烈アピールしてきたお相手から急に冷たくあしらわれる=押してダメなら引いてみよう作戦に引っかかってしまった?みたいな…
急に肩透かしくらって、気になり始めちゃうみたいなことってあるあるなのかなと思いますが
ぼく地球の場合は恋愛だけの視点とちょっと違って…
いくら輪が秋海棠を名乗ったところで、ありすは本当のことを感じ取っている描写にグッときます。
『未来に還っていくから、あなたが懐かしい』
木蓮が言っていた言葉ですが、
え
え
エモすぎる…
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ぼくの地球を守って あらすじ~vol.11~ ときどき感想